【彼の言葉は朝日を超える輝き】『鬼滅の刃 無限列車編』感想

レビュー
カズユナ
カズユナ

TV公開された劇場版『鬼滅の刃 無限列車編』について映画館で観た時の感想をリライトしてみました。ネタバレ含むのでご注意を。

 

 

【 人の想いこそが永遠 】

 

本作の始まりはお館様とお供の方が墓地を歩く場面から始まる。歴代の鬼殺隊が眠る墓地であり、膨大な数が鬼との歴史を物語っている。

 

「永遠というのは人の想いだ。人の想いこそが永遠であり不滅なんだよ」

 

名言として名高いお館様の言葉が本作のテーマである。不老不死であることが永遠であり不滅だ、と鬼たちは言うのだろう。

 

しかし、そうではない。

 

たとえ個が滅びようとも、次世代に想いを繋ぐことで生きることが出来る。ただ生き延びるだけでなく、より強くなって生きることが出来るのだ。

 

ささやくような声で語られた言葉ではあるが、鬼に対峙する者として、はっきりと鬼の存在を否定した強い言葉に感じられた。その言葉に魅入られた私たちは、この作品に没入することになる。

 

それにしても墓地の作り込みが素晴らしい。膨大な数だというのに細部まで表現できているアニメーション。そのクオリティの高さに本作への期待がいやがおうにも高められていく。

【信念を貫く男 煉獄】

 

「うまい!」

 

列車を揺るがせる短い言葉。煉獄という男の登場シーンは風貌以上に印象的であり、炭治郎たちが圧倒され言葉を失う場面でもある。

 

作画を崩し、少し笑いを引き起こさせる場面ではあるが、この言動こそ、炎柱・煉獄という男の魅力そのものだ。

 

周りにどう思われるかは関係ない。自分が良いと思うことを信じて貫き通すのだ。

 

とてつもなく熱く、周りを鼓舞する炎のような強さが煉獄という男の魅力だ。状況把握や意思決定の速さ、的確な指示を伴うことによって、その魅力は、より一層燃え上がっていく。


【幸せな夢に浸るのではなく 辛い現実に立ち向かえ】

 

炭治郎たちを「幸せな夢」という武器で窮地に追い詰める下弦の鬼。

 

人間は弱い生き物だ。美味しいものを食べたい。美しいものを着飾りたい。快適な暮らしをしたい。無限の欲望に流されやすい生き物だ。

 

「この夢に浸っていたいなぁ……」

 

炭治郎も人間である。欲望に流される弱い生き物である。しかし

 

「でも、俺はもう失った。お前たちと暮らすことはできない」

 

人間は強い生き物でもある。欲望を断ち切り、絶望から立ち上がる強さを持っているのだ。

 

壁にぶち当たったときに、己の弱さを嘆き、不甲斐なさを悔やむ私たちに深く突き刺さるメッセージだ。

 

「俺の家族がそんなことを言うはずがないだろう!俺の家族を侮辱するな!!」

 

悪夢を魅せられた炭治郎が激昂する場面では、彼自身の人を信じる心の清らかさが感じられた。

 

人間の持つ強さと、人を信じる清らかさを持つ彼だからこそ私たちは惹きこまれるのだろう。そして、人の弱さを痛いほど分かっている私たちは涙するのだ。

 

【君と俺とでは価値基準が違う】

 

「鬼になれ、杏寿郎」

 

お前は強い。もっともっと強くなる可能性があるのだ。だからお前は鬼になれ、と優しい口調で上弦の鬼である猗窩座 (あかざ)が煉獄に語りかける。

 

人間では回避出来ない死の克服は、甘美で魅力的に感じられる。

 

「俺はいかなる理由があろうとも 鬼にはならない」

 

だが、己を信じ貫く男は、はっきりと拒絶する。

 

仮に、煉獄が鬼になったとして今以上の強さを得ることが出来ただろうか。永遠に生きながらえることが出来ただろうか。そんなことはあり得ないと断言できる理由がある。

 

煉獄の信じる”強さ”とは、肉体ではなく精神。煉獄の信じる”永遠”とは、肉体ではなく想い。


「心を燃やせ」

 

自分ではなく誰かのためにこそ、彼の最大の強さは発揮される。助けたい、力になりたいという想いこそが彼を最大限に高めることが出来るからだ。

 

もし彼が”自分のため”に鬼の提案を受け入れたならば、彼の持つ強さは失われてしまうだろう。

 

“自分自身”と”自分の想いを引き継いでくれる者”を信じ抜く彼だからこそ、私たちの心を震わせるのだ。

 

【煉獄さんは負けてない!】

 

煉獄に致命傷を追わせ朝日から逃げていく鬼に、炭治郎が想いを叫ぶ。その言葉に怒りをあらわにし、自身の勝利を訴える鬼。鬼にとっては負け惜しみにしか聞こえない炭治郎の言葉ではあるが、果たしてそうだろうか。

 

自身より強き者にも、自分自身を鼓舞し立ち向かっていった煉獄。太陽が昇る時間まで鬼を追い詰め、最後には心で圧倒していた煉獄。なによりも「自分以外の全てを守るのだ」という責務を果たしきった煉獄。

 

そんな彼に「勝利した」と声高らかに宣言することが出来るだろうか。鬼も心のどこかでは分かっていたからこそ、怒りを隠すことが出来なかったのではないだろうか。

 

鬼と煉獄では勝利条件が違う。

 

相手を滅し自身が生き延びることが勝利条件である鬼に対し、自身以外の全てを守りきることが勝利条件である煉獄。どちらがより困難な条件であるかは明白である。

 

勝利条件が違う2人に対し勝負をつけること自体が難しい。だが、鬼に対して煉獄の勝利条件を突きつけた場合、おそらく達成することは出来ないだろう。

 

炭治郎の「負けてない!」は負け惜しみなどではない。より困難な条件を達成した煉獄にとっては、勝利以上に価値があるものだと心から訴えているのだ。

 

 

【何か一つできるようになっても またすぐ目の前に 分厚い壁があるんだ】

 

下弦の鬼に辛くも勝利した炭治郎たちの前で繰り広げられた異次元の戦い。そして、「助けたい」という想いを打ち砕かれた場面。

 

本作はクライマックスが二部構成となっている。一部のクライマックスでメインを務めていた炭治郎たちが圧倒されることで、メインクライマックスをより引き立てている。

 

「俺は君の妹を信じる 鬼殺隊として認める」「今度は君たちが鬼殺隊の柱となるのだ 俺は信じる 君たちを信じる」

 

煉獄の言う「柱」は二つの意味を持つ。

 

ひとつは「鬼殺隊の隊長である柱」を意味する。もうひとつは「鬼殺隊を支える柱(支柱)」を意味する。双方とも困難な道ではあるが必ず達成出来ると、彼は信じている。強き想いが引き継がれた場面だ。

 

眩い朝日が炭治郎たちの姿を照らす。そして、朝日以上に輝く言葉が炭治郎たちの心を照らしていく。

 

「母上 俺はちゃんとやれただろうか やるべきこと 果たすべきことを全うできましたか」

 

考え抜かれた演出と心震わせる言葉が、最後まで私たちの心を掴んで離さない。

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